五感でみつける 目で感じる
ファーマーズマーケット日和
真夏日が続いた8月。
早朝から照りつける陽ざしに足が遠のいていた野菜市場。
ここにきて、ようやく待ちに待った“マーケット日和”到来。
思えば、都市部で夜な夜な働くことが当たり前のようだった10数年前。
生鮮食品を買いに出かけることすら時間を奪われるような気がして、まして丁寧に調理していただく、など当時のわたしの優先順位からすれば、繰り下げ行為に該当。
決して褒められたことではないけれど、頭がto doリストでいっぱいいっぱいの日々というのは、人間らしさを容赦なく奪っていく。
そうした日常の積み重ねがどれだけ自分をひたひたと追い詰めていたのだろう。
だからこそ、こうして週末の朝いそいそとマーケットを訪れ、ただただ目の前の旬の食材を眺めたり触れたりしている時間が、いとおしい。
そう、この一連のゆるくのどかな時間の流れこそが、人生を無駄にするどころか静かに確実にわたしにとって“生きるみなもと”となっていることを思い知る。
マーケットは買い物客でにぎわいを見せている。
エコバックを抱えながらの姿は定着して久しいし、デジタル決済を選択する人もずいぶん増えてきた。
通路を行き交う人々は買物リストを眺めながらお目当ての野菜を手際よくカゴに収めたり、予算とにらめっこしながら高級魚を買うかどうか夫婦で話し合ったりしている。
それぞれの“暮らし”があるんだなあ、という当たり前の事実が、その人その人の体温とともに目の前に繰り広げられる心地よさ。
かぼちゃを山積みにしている一角に立ちよってみた。
サイコロ状にカットして蒸したものをふるまってくれる。
一口味わう。素朴で濃厚、やさしい秋の味。ただ幸福。
買物をすませ、屋外のテーブルやベンチがあるエリアでちょっと一息。
近くの川べりから「お腹すいた~」と大声で家族のもとに駆けてくる子どもたち。
その場にいる人たちの顔が皆思わずゆるむ。
子犬が売り物の鉢植えの隙間を歩き回り、飼い主さんが苦笑いしながら走り寄る。
市場で買ったばかりのマスカットを満足そうにほおばる老夫婦。
そんな人々をコーヒー飲むふりして盗み見てはにんまりしているわたし。
新鮮な食材を育てるひと。届けるひと。買い求めるひと。味わうひと。
暮らしを純粋に営むひとたちの姿はうつくしい。
残りのコーヒーにふと目を落とすと、色あせ始めた葉が一枚ひらりと舞い降りてきた。
いい土曜日。
中秋の満月、よい夢を。
2023年9月27日 ●
Miki
English Lab/ doers(ドアーズ) 主宰。完璧さよりも小さな一歩を応援するパーソナルイングリッシュコーチ。文章やコーチングレッスンをとおして、心を整えきらめく日々を提供できたらと探求する日々
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