美しい記憶のひとさじ

記憶の風景のなかにある味や食材の思い出をたぐりながら、
コーディアルを使って美味しい一品に仕立てて頂きました。
思い出とともに、美味しいレシピを目で味わってみてください。

Junko / かぶのサラダ

実家の勝手口を開けると痩せた金柑の木があった。
その実は小さく、皮はかたく、噛みしめると
ほんのり苦くて決しておいしいものではなかった。
葉を手で揉むとさわやかな香りがするのが好きだったし、料理のあしらいに添えると控えめな彩りをくれたけど、
喜んで食べた柿や夏みかんと比べると金柑はただいつもそこに在るだけの木だった。

時が過ぎ、実家を手放すことになった。
誰もいなくなった広いだけの古い一軒家の家終いは大仕事だ。
来る日も来る日も不用品を片付ける終わりの見えない作業に疲れ果て、もう残ったものは全てこのまま処分してしまおうと思った。

ふと外を見ると、金柑の木はあたりまえのようにただそこにいた。
ああこの木も切られてしまうのだと思うと急にいとおしい。

たまたまあった細長い瓶にその小さな金柑の実を詰まるだけ詰めてシロップ漬けにした。

実家を壊す日は、家も庭の木々もなくなってしまうのが寂しくて立ち会わなかった。
そしてしばらく旅に出た。

今ではもとの実家の土地には新しい家が建って、プランターを並べた家庭菜園の野菜がよそよそしく育っている。

私の冷蔵庫の奥の壁には、記憶に閉じ込められたままの金柑のシロップ漬けが今もある。
もう半分水分がなくなった細長い瓶が古い写真のようにただ貼り付いている。

かぶのサラダ 金柑コーディアルのドレッシング

〈材料〉
小さめのかぶ 2個
塩 ひとつまみ

(ドレッシング)
金柑のコーディアル 大さじ1
オリーブオイル 大さじ1と1/2
白ワインビネガー 大さじ1
塩 少々

〈作り方〉

  1. かぶを薄切りにして塩ひとつまみをまぶす。皿に広げて盛り、葉っぱを少し刻んで散らす。
  2. ドレッシングの材料をよく混ぜ合わせ、1にまわしかける。

※ 生ハムと冷えたスパークリングワインと一緒にどうぞ

Junko (en la co)
料理家

成田空港の会社に勤務後イギリス遊学。ロンドンでは日本食のレストランのアルバイトに精を出したり、ヨーロッパ各地を旅する。英国の航空会社に勤務。このころ、花粉症に悩まされ、知人から「マクロビオティック」がいいのではとアドバイスを受けたことから興味を持ち「リマ・クッキングアカデミー」にて師範を取る。花田美奈子氏プロデュースの竹橋のベジタリアンレストラン「アートスペース・ハナダ」の料理に魅せられ、厨房で働き始める。メニュー作り、セミナーの料理やパーティー、ケータリングの料理などを経験。自然食品店でマクロビオティックの料理教室の運営とメニュー作りを担当。中島デコ先生の料理アシスタントを務める。イギリスのマンチェスターにある英国ベジタリアン協会主催の料理教室を受講し、野菜だけの料理に魅せられる。

帰国後、料理教室 en la cocinaを7年に渡り開催。友人と立ち上げた通販サイトACOTの焼き菓子のオリジナルレシピを担当。のちにレシピブック「ACOTの焼き菓子」を上梓。自然栽培野菜を応援している青果店である築地御厨主催‘やさい塾’のレシピ開発、料理スタッフとしても活動。現在は、農家から自然栽培の野菜つくりを学びつつ、旬の野菜のイベント等を開催している。

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