五感でみつける 目で感じる

海辺のリズム

油蝉も最後の力をふり絞り、夏の終わりを謳歌しているかのようです。
とはいえ、わたしの住まうエリアでは、ここ最近までずっと雨続きの日々でした。
ちょっと前までは太陽のじりじりとした真っ直ぐな光に辟易していたのに、今度はお日様を待ち望む毎日とは人間って本当に身勝手ですね・・・。

さて、今日は珍しく絵本のご紹介。
デザインと視覚コミュニケーションをハーバード大学で教えていらしたイタリア人のブルーノ・ムナーリさんが描かれた一冊、『太陽をかこう』(1984年至光社)。
日本語訳は『ミラノ 霧の風景』や『トリエステの坂道』などで知られる著名なエッセイストであり翻訳家の須賀敦子さんです。

タイトルどおり太陽が延々と登場するのですが、たとえばこんな文章が添えてあります。

「朝はやく、太陽が地平線にのぼってくると、いちめん、バラ色になる。

太陽がしずむとき、空はミカンの色。雲や空気のせいで、夕ぐれの空は、ほんとうにいろいろな空になる。

地球のこちらがわで、夕やけがきれいいだなとおもっていると、むこうがわでは、ああ、すばらしい日の出だとおもって、だれかが空をみている。」

天候や時間帯によって変貌する太陽のありようや、そうした変幻自在の太陽を子どもたちの視点でとらえた姿がユニークな描き方で本いっぱいに詰まっています。

科学絵本かというとそうでもないし、デザイン本といえばそうかもしれないけれど、書き方指南でもない。
なんだろう、この不思議な魅力。と自分なりに考えていたら、この小さな一冊には、自然のものの見方の豊かさや奥深さが何の押しつけもなくーむしろ楽しげにー描かれているのです。ものごとって通り一遍ではないんだよ、何が正しいとか間違っているとか正解はないんだよ。
あなたが受け取ったままを堂々と表現していればいい。そんなやさしく心強いメッセージを受け取りました。

まんまる。と思われている太陽を子どもたちは決してオレンジや黄色だけで描いたりしないし、カタチだって決してまんまるにしない。薄目を開けてみえる太陽、洞窟の中から見える沈む太陽・・・本当、だれが太陽って明るい光線だけのまるいもの。って決めたんだろう?
決めつけほど愚かなことはないものだなあとしみじみ己を顧みるのです。

飛躍するかもしれないけれど、コロナ渦が始まってのこの2年間、心や社会の結びつきまでもじわじわ攻撃され、勇気をもって人生設計の変更に踏み切らざるを得なかったり、加速する同調圧力に負けずに意思を貫くもなかなか真っすぐ前に進めないもどかしさを抱えていたりー本当に混沌とした毎日です。
けれども、こうあるべき。を脱却したその先に映る風景はきっと「まあるい太陽」とはまた違った新しいその人らしい輝きにあふれた「太陽」に違いありません。
自分が自分であるための勇気ある判断や声を大事にしてゆきたいものです。

ちょっと話がそれてしまいました。
きっと今日の満月だっておんなじように、見る場所、時間、心持ちで100人100とおりの月がひとりひとりの中にあって、そっと静寂に包まれたり、励まされたり、悲しみに誘われたりーさまざまな月時間が流れているはず。

未知の終わりの見えぬ出来事に天を仰ぐ余裕もない日々を過ごしていらっしゃる方も多いかもしれないけれど、しばし太陽のひかりの恩恵を受け取りながらのびやかに深呼吸して、
月のひかりを静かな眠りのための養分にして、次なる季節をお迎えしたいと思います。

2021年8月22日 

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Miki

English Lab/ doers(ドアーズ) 主宰。完璧さよりも小さな一歩を応援するパーソナルイングリッシュコーチ。文章やコーチングレッスンをとおして、心を整えきらめく日々を提供できたらと探求する日々

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